キミに会わないと決めてから、まだ三日しか経っていない。
一日目。簡単だと思い込んでいた。
二日目。考えないように努力した。
三日目。とうとう耐えられなくなったことを自覚した。
目覚めと同時に襲ってくる苛立ちに耐え切れず、まだ太陽が昇りきる前の薄い光の中、キミの所へと急いだ。
キミがいるその場所の前に立つと、自然と笑いがこみ上げる。あれほど心に決めたのに結局駆けつけてしまった自分に。
それでもしばらくその場に立ったまま考えた。
今まさに、ここが踏ん張りどころだと思うからだ――。
キミに会わないと決めたのは俺にとって一大決心だった。
昔からの親友に「無駄だ。と言うか、お前には無理だ」とはっきり断言されるくらい俺はキミに溺れていた。
一日中側にいるのがあたり前で、気がつくといつもキミを探している自分に気がつく。
本当にどうしようもないくらい好きだった。
初めて会ったのは俺が学生の頃。
世間では認められていないことだし、初めはタダの憧れでしかなかった。
学生でしかない俺にとって、ハコ入りのキミはまさにタカネの花だった。しかし、ふとしたきっかけから俺の手が届く距離にキミはいた。
とにかく夢中で、あの人から盗むようにキミを連れ去った。
俺は間違いなくキミの虜。
でも、そんな魅力的なキミを諦めようと思ったのは他でもない、俺のためだ。
あれからもう何年も経っている。
今さらキミを諦めても過ぎ去った時間はもう戻せない。
最近やっと気がついた真実から目をそらす事は簡単だった。
今までもそうだったように、これからも知らないフリをすればいい。
そうだ、簡単なことじゃないか。でも、それでも…―。
――太陽が昇りだした早朝。
路上で一人突っ立ったまま悩んでいると、犬の散歩に出てきた中年のおじさんが怪しげに俺を見ていく。
そりゃそうだ、こんな朝からこんなところで、一人唸り続けている人間はかなり怪しい。今の状況に今度は苦笑がもれる。
「しょうがないよな。もう中毒なんだ。うん」
そう自分に言い訳をしてポケットのコインを落とし、キミに会える魔法のボタンを一つ押した。
――ピッ…ウィ〜ン………コトン――。
息を吸い込み見上げた青空は雲一つなく。
「はぁ…禁煙かぁ〜」
その青い空に、ぼやきと三日ぶりの紫煙を吐きだした。